江戸期刺繍
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自然布…布に慣れている方でない限り、あまり聞き馴染みのない言葉かもしれません。
自然布とは草の茎の皮や樹木の皮から採った靭皮(じんぴ)繊維を使用した布のことです。
靭皮(じんぴ)繊維とは麻系茎幹の繊維の総称で主に大麻・亜麻・黄麻・藤・葛・苧麻・科、また芭蕉やマニラ麻の葉などがあります。
いわば自然布とは山野に自生する草や木の皮から糸を紡ぎ布を織り出す、古人から受け継いできた知恵の結晶です。
自然布の作り手は木綿の流通とともに急速に減少していきます。硬い靭皮を糸にする労力は並大抵のことではありません。そのため生産量の関係から自然布は大変高価な布として知られております。
しかしも仮に自然布をお身内の方から譲られても、その価値をあまりご存知なく古布回収業者などに安価で売却されてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
なにかはわからないけど手触りの違う布がある、ゴワゴワした感触の古い布がある、などと思われましたら要注意です。
そこで今回は自然布とは何か、どう売却したらよいのか、種類などを分かりやすく説明していきたいと思います。
自然布とは上記させていただきました通り、草の茎の皮や、木の皮から採った靱皮(じんぴ)繊維を用いた布のことを指します。自然布は草木布とも原始布とも呼ばれております。
麻も日本の自然布に含めますと科布(しなふ)・藤布・葛布(くずふ)・楮布(こうぞふ)・太布・紙布・芭蕉布などが挙げられます。
・麻布:麻とは植物表皮の内側にある柔繊維または、葉茎などから採取される繊維の総称になります。そして日本において馴染みがある麻は大麻と苧麻になります。
大麻はアサ科の一年草で、原産地は中央アジアから西アジア、西北ヒマラヤとされております。日本へは縄文時代ごろには伝来していたと考えられております。
そして大麻は天皇の政(まつり)や神事に用いられた古来日本の神聖な糸となります。
『日本書紀』には苧麻栽培を推奨した記述が残されていることや『万葉集』には「庭に立つ 麻手刈り干し布さらす 東女を忘れたまふな」という和歌もあり奈良時代には大麻などが栽培されていたことがわかってきました。
このことからもわかるように大麻はシャーマニズム的な呪術的要素で使用された一方で平民の普段着や野良着、籠などの日常雑器から武士階級の衣裳など日常的用途で用いられておりました。
しかしそれも化学繊維の台頭や需要の減少、栽培者の高齢化、そして戦後GHQの指導下になり大麻の栽培自体が禁止されてしまい大麻栽培の担い手は数えるほどとなってしまいました。
大麻による麻布で有名なものが対馬麻ですが現在では全く生産されておらず現存するものは戦前に生産されたものがほとんどではないでしょうか。
麻の中でも上級品は上布と呼ばれております。近江上布・奈良晒・越後上布・宮古上布などが有名です。
・科布(榀布・しなふ):東北地方以北に自生するシナノキの繊維を布地にしたものになります。木綿が大変貴重だった時代、水に耐性があることから日常着や野良着に利用されましたが時代の流れと共に着られることが少なくなり、今では山形県と新潟県の一部で生産されるのみとなり高級帯やカバン、帽子などが作られております。
織り目は植物繊維とすぐわかる野性味たっぷりの粗さ、色もタンニンを多く含むため染めずして柿渋のような茶褐色・赤褐色と、味わいのある風味をもつ独特な布です。
・葛布(くずふ):葛布は葛の繊維を紡いだ糸から作られる織物になります。日本では古墳時代前期に九州大宰府の古墳から出土した鏡に葛布が付着しており、それが日本最古の葛布とされております。
葛の蔓を煮て水に晒し発酵させたのちに繊維を取りだし、これを績んで葛糸にします。緯糸・経糸ともに屑糸が用いられたものの他に経糸に絹や木綿を用いたものもあります。
古代日本においては庶民の被服や上流階級の喪服などの材料とされておりました。
中でも江戸時代初期のころから静岡県西部の掛川市を中心に葛布が盛んに生産され、当時の百科事典である和漢三才図会にも「葛布は遠州懸川より出ず」と書かれているほどです。
現在では襖張りや壁張り、表装や装本用の布などで用いられたり、簾やシェードなどのインテリア、そして帯地やハンドバッグなどの民芸品などにも用いられております。
・楮布(こうぞふ):楮は桑科の植物で和紙の材料にも使われ、江戸時代には提灯・行灯・扇子・団扇・紙衣・足袋・合羽・凧・郷土玩具・襖・屏風など生活に溶け込んだ繊維のひとつとして知られております。
楮の皮の繊維は麻に次いで長く繊維が絡み合う性質が強いため丈夫な和紙の生産に適しているとされております。
・紙布(しふ):紙布は紙糸を材料として織り上げた布になります。細かく分類しますと紙糸を縦糸、横糸の両方に使用した物を諸紙布、縦糸に絹・綿・麻糸を使い、横糸に紙糸を使用した物を絹紙布・綿紙布・麻紙布とに分けられます。
紙そのものを用いて作られた紙衣(かみこ)とは異なり軽くて肌触りが良く、特に女性の夏の衣料用として使用されました。
紙布は江戸時代より宮城県白石市周辺で生産されたと記されております。仙台藩白石城主・片倉家の奨励のもと技術改良が進み江戸時代中期には幕府に特産品として献上されるようになりました。
織り方も平織りだけだったのがシボの入った縮緬織りや地紋のはいったものまで織られるようになり京都の公家たちへの進物品ともなりました。
・芭蕉布:芭蕉布とは芭蕉の繊維から採った糸を用いて織られた布で、沖縄・奄美群島の工芸品になります。
繊維が麻よりも固く、張りがあり風通しもよく高温多湿な風土によく合った夏の着物に用いられておりました。この他にも蚊帳や座布団などにも愛用され沖縄地方を代表する布地と言えましょう。
芭蕉布は縞芭蕉や絣芭蕉などが一般的ですが琉球藍によって染められたものもありました。特に士族男性の礼服は藍染の芭蕉布で織られた「黒朝衣(クロチョーギン)」と呼ばれており、いわば流装の象徴的芭蕉布になります。
民芸運動の開祖のひとりである柳宗悦により「用の美」が見出された芭蕉布は単なる伝統工芸品ではなく民藝としての価値が高くなりました。しかし第二次世界大戦後、アメリカの占領下になると芭蕉布の原料イトバショウが蚊の繁殖を原因とされ伐採されると芭蕉布は産業として途絶えようとしていました。
その後芭蕉布の復興は平良敏子の尽力によって果たされます。1974年に喜如嘉の芭蕉布は国の重要無形文化財に認定され、2000年には平良敏子も重要無形文化財「芭蕉布」保持者として認定されます。
上記のように一言で自然布と申し上げても種類が多いことが分かります。
独特の風合いを持ち、絹や木綿とは違った魅力のある自然布は日本を代表する伝統工芸品でもあります。
作り上げるまでに大変な手間がかかり大量生産ができないことが高額取引になる最大の要因です。
自然布は反物だけでなく着物の帯や鞄などの和小物にも用いられております。
希少性の高さから高額買取となる可能性がある自然布ですが、見た目の地味さや現在の生活スタイルからはなかなか価値のありそうな布に見えないかもしれません。そのため着物などの買取を依頼した大手リサイクルショップや芸能人を広告に起用した着物リサイクル店などに安価で買取されてしまう可能性もございます。
自然布は高額査定のチャンスだからこそ、きちんと自然布に対する知識の豊富な買取業者を選択する必要があります。
インターネットの普及により「自然布 買取」や「科布 処分」などで検索しますと数多くの買取業者がヒットするかと思います。その中から一体どの買取業者がご自身に合うか、見つけるのはなかなか骨が折れる作業となるかもしれません。
ポイントとしましては、まず買取実績などを見て実際に自然布の買取をしているかどうか見定めることです。
また今では画像添付するだけのライン簡易査定などweb査定を充実させている業者もおりますので、気になった買取業者に画像を送り見積もりを取るとよいでしょう。
ご不安でしたら一社だけでなく複数の買取業者に見積もりを出し見比べるのもよいかもしれません。
自然布には麻布や科布(しなふ)・藤布・葛布(くずふ)・楮布(こうぞふ)・太布・紙布・芭蕉布などの種類があり、日本古来より伝統的手法で作られている工芸品になります。
手間と時間がかかるため大量生産に向かず、希少性の高いものがほとんどです。
そのため自然布の中には高額で取引だれるものも少なくありません。
適正な価格で査定を受けるには自然布に詳しい買取業者の選択が必要になります。
場合によっては何社かに問い合わせてみるのもよいかと思います。
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この記事を書いた人
東京美術倶楽部 桃李会
集芳会 桃椀会 所属
丹下 健(Tange Ken)
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